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 もがけばもがくほど実現しない自己。狂奔すればするほど低下する学力。封印されたタブーを今こそ論じなければならない。。
今私たちは、妙な時代に生きている。日本は豊かなはずなのだ。どんなに貧しくたって、食べていくだけなら食べていける。なにを言ったっていきなり刑務所にぶち込まれることもまあない。着るものだって食べるものだって自由だ。少しぐらい景気が悪くたって、失業してたって、とりあえず、ほとんどの人は戦争直後よりも豊かである。
 それなのに何故かみな、これからの世界に暗いイメージを抱いている。貧しくたってみんなで生きていけばいいじゃないか、経済競争に少しぐらい遅れをとったってそのまま滅亡するわけじゃあるまいし、みんなで歌声を合わせた方が楽しいよ、などという発想は誰からも出てこない。要するに、誰もが競争し過ぎ、働き過ぎで疲れ切っているのだ。しかしそれでも、いまだに「自民党政権を倒すには」とか、「市民運動を起こそう」とか、そのぐらいのところにしか考えが及ばないのである

前書き 目次 本文70% あとがき

感想BBS 本の誕生秘話 著者profile
Copyright (C) 2007 明窓出版, All rights reserved






























   推薦の言葉
●●●●●推薦の言葉の中身●●●●●

































  まえがき


 この本にも登場する私の祖父は、評論家という人種が嫌いだった。「責任もとらんで、べらべらと好きなことばかり言いおる仕様も無い連中だ」というのが祖父の評論家に対する感想であった。「好きな事実を引っ張ってくれば、いくらでもあとから理屈などつくわい」という意見がその背後にあった。
 もう少し年をとって、言い方がやや緩やかになった頃は、テレビや新聞などで評論家が好き勝手なことを言っていると、「おやおや、また群盲が象をなでておるわい」と言った。
 この表現はある意味では、言いえて妙であった。なぜなら、巨大化した現代社会の中で、われわれは大きな現実の断片しか見ることができず、まさに自分がわずかに知っている一部分をなでているに過ぎないからである。

 私は現在一歳の息子と、時としてスーパーに買い物に行く。子供連れの人間というのは、おばあさんたちにとって、話し掛けやすい対象らしく、この間私は、あるおばあさんの昔話しに巻き込まれた。
 詳しい話しは忘れてしまったが、そのおばあさんは、戦争の頃、岡谷の方で工場に勤めていたそうだ。そのときの苦労話がしたくてたまらないらしい。「それではお忙しいでしょうからこのぐらいにしておきましょうね、」と彼女は時々言うのだが、それでも話しは一向に終わらず、気づいた時には三十分以上も付き合わされてしまっていた。
 語りたいことを持っている人は多い。特に、戦争時代から高度成長時代を生き抜いてきた人たちは、みな何かしら語りたいことを持っている。そして、多くの場合その話しは人生を感じさせて面白い。
 しかし、と私は思う。彼等が話していることは、まだ意味というものを与えられていない生の現実である。彼らの体験そのものである。彼らは彼らなりに時代を生き抜いてきたから、体験自体は面白いのだが、ある意味では、これもまた群盲に過ぎない。
 そうした彼らの話しを聞きながら、彼らの時代がどんな時代であったのか、そしてどのようにして今の社会が形作られてきたかを知るには、体験を聞くだけでは十分でない。群盲の地位から脱して、象全体を視野におさめたい人がいるとすれば、そこには別の手法が要る。 後略
 

























    歯車の中の人々      目  次


第一章 お隣は別世界の人?
           プロローグ 13
           公立高校で 17

第二章 平和な時代の背後には
           厳かということ 23
           ルーツ 28
           祖父の見た時代 33
           青春の憂鬱 38
           駒場文学 43

第三章 自己啓発セミナー
           自己啓発セミナー(一)47
           自己啓発セミナー(二)50
           自己啓発セミナー(三)57
           自己啓発セミナー(四)60
           自己啓発セミナー(五)66
           目に見えないもの 70
           アドニス 76
           アサゼミナール(仮名)81
           ネクラな青春 89
           父 親 96
           自己啓発セミナーの末路 104

第四章 教育とその背景の社会
           中産層の世界 109
           鬼無里 116
           母 親 121
           民主主義ごっこ 127
           様々な教育 130
           失敗した家庭 135
           失敗例(二) 140

第五章 現代の結婚
           結婚ということ 145
           結婚相談所 149
           結婚相談所(二) 157
           予備校から出版社へ 163
           事 件 168
           結 婚 175

第六章 階層社会と家庭教育
           スタンスの取り方 181
           スタンスの取り方(二) 186
           再び個人史について 193
           親たちの感性 198
           理想と現実 202
           素養の崩壊 208
           抽象の崩壊 217
           伝統の崩壊 226
           都市部の熱狂 231
           要約すると 236

第七章 豊かさをさすらう人々
           群 像 242
           友人たち 246
           世界に飛び出した人たち 250
           教育の現場 257
           結 語 266
           提 言 272
あとがき 279


























第一章 お隣は別世界の人?






  プロローグ



 最初から私事で恐縮であるが、十年程前、湾岸戦争が起こった翌日、私は、東京都にある、ある塾で仲間の教師たちと雑談をしていた。
「ところで先生、今先生が個人で教えているあの生徒、いったい塾にいくら払っているかご存知ですか」
 いきなり聞かれてとまどった私は、「さあ」と言ってから計算を始めた。今までそんなことを考えてみたこともなかったのだ。一回当たりの個人授業料が二時間で三万円(この塾はハイステータスを売りにする月謝の高い塾である)、彼は週に三回私に習っているから、一週間で九万円、ひと月は約四週間だから、それだけで三十六万円……
 私は少しぞっとしてきた。
「そして、彼は他にも国語と英語と理科と社会を個人教授についてますよね、その他にも別に、本科の授業を取って、今月はそれでもさらに足りないと言ってて先生のほかにも個人で数学を習っていて……」
 今度はめまいに襲われた。
 私は数学の教師だから36万×5ぐらいは、暗算ですぐに出てくる。ひと月に何百万円もをこの塾につぎ込んでいる人っていったいどんな人なんだろう。
 私は教室に向かった。
 生徒の名前は、仮にA君としておこう。正直なところ、私はこの生徒を教えることが少し苦痛だった。何しろ、彼が試みることは、いかにして私を数学の授業から引き離し、彼の好きな雑談に引きずり込むかというただ一点だったからである。
 案の定、教室のドアをあけると、彼は私に背を向けるようにして、二本の鉛筆をいじくっていたが、私に気づくと太い声で、「先生、これなんだか知ってますか?」と来た。
「これはね、スカッドミサイルなんです、戦争してますよね、ぶーんぶーん」
 
 ここらで少し客観的な事実も述べておこう。彼は、首都圏では大変有名な私立大学の付属中学校に通う、当時中学三年生の生徒である。いわゆるお受験を果たして、小学校から付属に通い、中学生まで来たのはよいが、そこで全く勉強をしなくなった。


 あ、ゴメンナサイ。立ち読み部分はここで終わりなんです。ここまで読んで下さって有りがとうございます。
 このあともっと面白くなりますから買っていただけるとすごく嬉しいです。 




















  あとがき


 本書を書き終わったあとで、私はあるテレビ番組を見ていた。すると番組の中に、塩野七生氏という、イタリアのルネサンス期に精通した作家が出てきて、ビートたけしと対談をしていた。
 彼女の語ったことのうち、私は次の言葉に強い印象をもった。
「戦争はね、確かにいけないことですよ、悪いことですよ、しかし、実は一つだけ戦争にはいい働きもあるのです。それは、人間の欲望を単純化するということなんですよ。貧乏な社会では、生きのびるとか、食べるとかいうことにみんな夢中ですから、欲望が肥大化していきません。逆に、平和な社会では、みんな欲望には限りないですからね。母親を殺してしまうなんていうことは、平和な社会でしか起きないですよ。貧乏な社会で、子供が一生懸命に自分を養ってくれた母親を殺すなんてことはできっこないんですよ。今は先進国では、どこの国でも、母親を殺す子供なんて例が出てきて、このイタリアでさえそうなんですけど、母親殺しは平和の代償だと思わなければいけないんですよ」。
 ざっとこんなことを彼女は語ったのだ。   後略
























 著者プロフィール

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本の誕生秘話

 「ホームページを見たものだけど原稿を見てもらえないだろうか」と電話が入った。送ってもらい数日かけて読んだ。なかなかの力量だとは思ったが正直、どれだけ売れるか分からなかった。
 一度お会いしましょうということになって、八重洲の地下で喫茶店での待ち合わせとなった。
 話のやりとりの中で、原稿を読んだときにはさして気にもとめなかったことが彼の口から出ると俄然生彩を帯びて耳に響いた。
 「要するに、誰もが競争し過ぎ、働き過ぎで疲れ切っているのだが、それでも、この社会を変えていこうなどという人は、いまだに「自民党政権を倒すには」とか、「市民運動を起こそう」とか、そのぐらいのところにしか考えが及ばない」
 この言葉で決心がついた。ただ、この本のタイトルでは、著者の栗田さんと意見がうまく噛み合わなかった。彼の発案の「歯車の中の人々」に今イチの感を持ったが、代替案のなかった私としては、呑まざるを得ない心境でもあった。
 もう少し考えてみたいとの気持ちと、早く書店に並べたい……との気持ち中で、後者をとった。























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